心を詠む(1/20)
このシリーズでは、「心(こころ、情)」という字を入れてこころの状態を詠んだ作品を取り上げる。ただし熟語は除く(歌の数が多くなりすぎるため)。
心の語源は、「こりこり、ころころ(凝凝)」。
三輪山をしかも隠すか雲だにも情あらなも隠さうべしや
*飛鳥から近江の大津に遷都した際に、近江に向かう途中、額田王が詠んだ歌である。
「三輪山をどうしてこのように隠すか、雲であっても心あってほしい、隠さないでいてほしい。」
梓弓引かばまにまに依らめども後の心を知りかてぬかも
*久米禅師に返した歌。「梓弓を引くように私の手を引いてくだされば応じましょう。けれどその後の貴方の心変りが不安です。」
真木柱太き心はありしかどこのわが心鎮めかねつも
万葉集・日並皇子宮の舎人
*草壁皇子の死を悼んで舎人たちが詠んだ晩歌のうちのひとつ。「真木の柱のように太くしっかり
とした心を持っているはずなのに、この悲しい心を鎮めることが出来なかった。」
淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情(こころ)もしのに古思ほゆ
万葉集・柿本人麿
まそ鏡磨(と)ぎし心をゆるしてば後に言ふとも験(しるし)あらめやも
さを鹿の心相(あひ)思ふ秋萩の時雨の降るに散らくし惜しも
万葉集・柿本人麿歌集
大夫(ますらを)の心は無しに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ
万葉集・作者未詳
雨降れば激(たぎ)つ山川(やまがは)石(いは)に触れ君が摧(くだ)かむ情は持たじ
万葉集・作者未詳
以上の歌に出てくる言葉のいくつかにつき注釈しておこう。
三輪山: 奈良県桜井市にある標高467.1m、周囲16km の山。古くから「神宿る山」とされ、山そのものが御神体であるとされた。
真木柱: 真木柱は太いものであるところから、「太し」にかかる枕詞。
まそ鏡: 「磨ぐ」にかかる枕詞。「まそ」は「ますみ」の音変化。
[注]このシリーズにおいても、添付した画像や歌の現代語訳について、WEBや辞典を参照、借用している。出典は煩雑になるので省略。