心を詠む(7/20)
心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
*「心ならずもこの世に生き永らえたなら、いつか恋しく思い出すに違いない――そんな月夜であるよ。」 百人一首にあるので有名。
心をばとどめてこそは帰りつれあやしや何のくれをまつらむ
詞花集・藤原顕広
*「心は恋しい人のもとに留めて帰って来たというのに。いぶかしいことよ、どうして夕暮を待ち侘びるのだろう。」
すみのぼる月の光にさそはれて雲の上まで行くこころかな
詞花集・藤原実行
おのが身のおのが心にかなはぬを思はば物はおもひしりなむ
詞花集・和泉式部
*「自分の身は自分の心のままにはならないもの。そう思えば、(私があなたに逢えない)事情も分かっていただけるでしょう。」
ふたつなき心を君にとどめおきて我さへ我にわかれぬるかな
詞花集・清胤
*「たった一つの心を貴方のもとに留め置いてしまったので、私自身、我が身と別れたようなものでした。」
忍びねの袂は色に出でにけりこころにも似ぬわが涙かな
千載集・皇嘉門院別当
*「忍び泣く声は袖の袂で抑えたけれども、その袂は涙に染まって、思いが色に表れてしまった。心は恋の辛さを隠そうと必死なのに、涙は心に合わせてくれない。」
心さへ我にもあらずなりにけり恋はすがたのかはるのみかは
千載集・源 仲綱
*「心までもが、自分のものではないようになってしまった。恋をすると姿が変わるだけではなかったのだ。」
恋ひわぶる心はそらにうきぬれど涙のそこに身は沈むかな
千載集・藤原実房
[註]
詞花集は、平安時代後期の第6勅撰和歌集。崇徳院の下命により藤原顕輔撰。10巻。仁平年間 (1151~54) 完成。『金葉集』の影響が大きく,平明で清新な歌風ながら,一方では平凡な面も多少あり。
『千載集』は、鎌倉時代前期の第7勅撰和歌集。 20巻。歌風は、新奇な傾向を強く打出した先行の『金葉集』『詞花集』と違い,概しても平明温雅なるも、清新な叙景歌やみずみずしい抒情歌,深みのある思想歌などあり。以下の三例でも感じられる。