天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

心を詠む(13/20)

  孤(ひと)りなる心のごとく居りしかど一日(ひとひ)一日はきびしく経(へ)ゆく

                      佐藤佐太郎

*ひとりでやっていけると思っていたが、周囲との関係からは厳しい日が続くという。

 

  現(うつつ)なるこころのながれ惜しみつつかすかに生きてありと思はん   

                      佐藤佐太郎

*老境の歌に感じられるが、佐太郎は当時まだ50歳代。

 

  たじろがぬいまのこころかあやまれる評価にメスを入れんとぞして

                       木俣 修

  秒のまを堺にして心がかわる、それでよい 逢えない別れも

                       足立公平

*破調で読みづらい。結句の「逢えない別れ」とは、死別のことか?

 

  触覚の如く怖れにみちてゐる今日の心と書きしるすのみ

                       河野愛子

  生き生きとしたる心もひとときの夜半(よは)の机に保ちゐしのみ

                       田中順二

  おもねらぬ心軽さよ凍(い)て雪は肩に積めども濡るることなし

                       斎藤 史

*おもねらぬ: こびない、へつらわない。

 

  寒の日の蒲萄の棚の下に来て揺れゐるごときこのこころはや

                       大野誠

*初句から「揺れゐる」までが「ごとき」に序詞としてかかっているように見えるが、実際に作者は葡萄の棚の下に来ているのだろう。

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蒲萄の棚