天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

大樹を詠むースギ

 スギ(杉)は、ヒノキ科スギ亜科スギ属で日本原産の常緑針葉樹。屋久島の縄文杉は樹高25.3 m、胸高周囲16.4 mに達し、推定樹齢は2000~7200年とされている。また豊臣秀吉の時代に伐採されたとされるウィルソン杉の切り株は、縄文杉とほぼ同格で、現存していれば最大級の屋久杉のひとつであったという。

 

  神名火(かむなび)の神依(かむより)板(いた)に為(す)る杉の思ひも過ぎず

  恋のしげきに         万葉集・柿本人麿歌集

神奈備: 多くの神々が天降る山のことで、依り代(よりしろ)となる磐や木に神々は天降る。「依り代」というのは、神々が天から降臨するときの指定席のようなもの。

 

  いにしへの人の植ゑけむ杉が枝(え)に霞たなびく春は来(き)ぬらし

                 万葉集・柿本人麿歌集

  山の端に月のしら刃のかげさせば谷間の杉の鉾(ほこ)とがりくる

                       四賀光子

  杉の穂の高きを見れば月澄める空をわたりてゆく風のあり

                       土田耕平

  ものの行(ゆき)とどまらめやも山峡(やまかひ)の杉のたいぼくの寒さのひびき

                       斎藤茂吉

*「世のものの変りゆくのはとどめられない。山峡の杉の大木にふく凩の寒さの響きよ。」

 

  千年の杉みな濡れて落つる瀧かがやくみづはこずゑに高し

                      上田三四二

  並び立つ多武(たむ)の大杉打ちゆかば虚(うろ)をひびかす樹もあるらむか

                       藤川弘子

*多武(たむ)の大杉: 奈良県桜井市南部にある多武峰(とうのみね)の大杉。

 

  杉の幹に縦ざまにしてはしりたるその凍裂の深さを思ふ

                       岡部文夫

  日が沈み闇にかえれる大杉の木々の力を山はおさむる

                       糸川雅子

  蟲川の大杉と呼びてをやれば老いにし樹は笑ふよ瘤(こぶ)と虚(うろ)もて

                       森岡貞香

*蟲川の大杉: 樹齢1200年以上といわれる御神木で、高さ約30メートル、目通り(樹木の周長)約10.6メートルの全国でも有数の杉の巨木。 新潟県上越市浦川原区虫川にある。

 

  目の前に七千二百年生き来しかと息呑みて立つ縄文杉

                       佐藤裕禎

  千年の杉を仰げばある高さより山ふかき雲に紛るる

                       秋葉四郎

  さつきまでわが坐りゐし石の椅子たちまち冷えて大杉の影

                      一ノ関忠人

  午後の陽を背にせし喬きあけぼの杉この世の外のしづけさにあり

                       河野裕子

f:id:amanokakeru:20210320064741j:plain

ヒマラヤスギ (俣野別邸庭園にて)