天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

大樹を詠むーシイ

 シイ(椎)はブナ科の常緑高木。大きいものは25mにも達する。椎の実は、縄文時代には重要な食料であったという。

 

  忘れるとは恨みざらなむはしたかのとかへる山の椎はもみぢず

                  後撰集・読人しらず

*女から「私を忘れるとはひどい、恨みます」と言ってきたので、返事に「放たれる鷹が帰ってゆく山の椎の木が紅葉しないように、あなたへの思いは変わらないですよ。」と書いた。

 

  五百枝(いほえ)さす椎のしみらの若やぐや若葉の光家もあかるく

                      伊藤左千夫

*しみら: 茂ら・繁ら。繁みのこと。 「五百枝(いほえ)さす椎のしみら」で、たくさんの枝のでている椎の繁み、という意味になる。

 

  君が岡にまろくも立てるひと本(もと)椎その椎見ゆる有明月夜

                       窪田空穂

  二た本の椎の大木に注連(しめ)張りて宜(うべ)も古りけり湯の宿の庭

                       島木赤彦

*宜(うべ): なるほど。いかにも。

 

  みづからを次第に次第に重くする椎の一樹が昏るる野にあり

                      真鍋美恵子

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称名寺の椎の木 (WEBから)

[注]宮城県亘理(わたり)町にある。 。樹高14m、幹周10.2mで、推定樹齢は700年とされる。