命の歌(1/17)
このシリーズでは、「命(いのち)」を詠み込んだ短歌を取り上げるが、命を詠んだ和歌・短歌は最も数が多いと思われる。動植物から微生物にいたるまで、命の不思議は宇宙の時空間の不思議と共に、人類最大の謎ではないか。
命の語源は、「いきのうち・いのうち(息内・生内)」「息にこもる力」や「いのち(生路、生霊、生力)」の説がある。「い(生)」を語根とする家族語。
うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良湖の島の玉藻刈りをす
万葉集・麻続王
天の原振り放(さ)け見れば大君の御寿(みいのち)は長く天足(あまた)らしたり
万葉集・倭姫皇后
わが命し真幸(まさき)くあらばまたも見む志賀の大津に寄する白波
万葉集・穂積王
わが命も常にあらぬか昔見し象(きさ)の小河(をがは)を行きて見むため
*「いつまでも達者でいたいものだ。昔見た象の小川に再び行って見るためにも。」
水沫(みなわ)なす微(もろ)き命もたく縄の千尋(ちひろ)にもがと願ひ暮しつ
真田葛延(まくづは)ふ夏野の繁く斯(か)く恋ひばまことわが命常ならめやも
万葉集・作者未詳
*「ま葛ののびる夏野のように、しきりにこれほど恋うていたなら、本当に、私の命はどうかなってしまうのではないだろうか。」
玉久世(たまくせ)の清き河原に身祓(みそぎ)して斎(いは)ふ命は妹が為こそ
万葉集・柿野本人麿歌集
* たまくせ: 浅瀬の砂や石の多いところ。河原。
家にてもたゆたふ命波の上に浮きてし居れば奥処(おくか)知らずも
万葉集・作者未詳
*奧処: ここでは行く末、将来を意味する。
「家にいてさえも定めなき我々のこの命。こうやって波の上に浮き、揺られていると、この先どうなって行くのやら。」