天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

命の歌(2/17)

  中臣(なかとみ)の太祝詞(ふとのりとごと)言ひ祓へ贖(あか)ふ命も誰がために汝(なれ)

                  万葉集大伴家持

*一首目の意味は、「中臣氏に伝わる太祝詞をあげてお祓いをし、供物をして長命を祈ったのは誰のためか、お前のためなのだよ。」

 

  ながからぬ命のほどに忘るるはいかに短き心なるらん

                      伊勢物語

*「長くはない命の程に、今はなき妻を・忘れるのは、何と短い我が心であろうか。」妻を亡くした後で別の女と親しくなった男の感想。

 

  春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことは命なりけり

                 古今集・読人しらず

  もみぢ葉を風に任せて見るよりもはかなきものは命なりけり

                  古今集大江千里

  命やはなにぞは露のあだ物をあふにしかへば惜しからなくに

                  古今集・紀 友則

*あなたに逢えるなら、露のようにはかない命など捨ててもかまわない、とは威勢がいい。

 

  いのちだに心にかなふものならば何かわかれの悲しからまし

                    古今集・白女

*「命さえ、心のままになるものならば、何で別れが悲しくありましょうか。」

 

  ありはてぬ命待つまの程ばかりうきことしげく思はずもがな

                  古今集・平 貞文

*「ずっと続くわけでもないこの命が、絶えるのを待つ間ぐらいは、嫌なことで頭をいっぱいにしたくないものだ。」

 

  えぞ知らぬいまこころみよ命あらばわれやわするる人やとはぬと

                 古今集・読人しらず

*理屈っぽく分かりにくいが、「私たちは本当に逢ったのでしょうか、分りません。もう一度逢ってどちらか試してください、私が忘れてしまったのか、貴方が来なかったのか」という意味。

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もみぢ葉