命の歌(4/17)
哀れとも君だにいはば恋ひわびて死なむ命も惜しからなくに
拾遺集・源 経基
惜しからぬ命や更に延びぬらむをはりの煙しむる野べにて
*詞書として「神明寺の邊に無常所まうけて侍りけるがいとおもしろく侍りければ」がある。
無常所とは墓場、墓地のこと。「をはりの煙」とは荼毘の煙であろう。その煙が目にしむ野辺の墓地にいると惜しくない命がさらに伸びる気がする、という。ユニークな内容である。
命をぞいかならむとは思ひこし生きて別るる世にこそありけれ
拾遺集・右衛門
あすならば忘らるる身になりぬべし今日をすぐさぬ命ともがな
*歌の理解には、次の歌の解釈が参考になる。
忘れじの行末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな
新古今集・高階貴子
*意味は、「先々まで忘れまいとおっしゃってもそれは難しいので、幸せな今日を限りの命であったらよい。」
今宵さへあればかくこそ思ほえめけふ暮れぬ間の命ともがな
君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
うたたねのこのよの夢のはかなきにさめぬやがての命ともがな
*「うたたねでみる夢はなんとはかないことだろうか。 いっそのことならば、夢のまま覚めない命であって欲しい。」藤原実方は、宮中の殿上の間で藤原行成と口論になり、実方は笏で相手の冠をたたき落としまう。これが一条天皇の不興を買い、陸奥の歌枕を見てまいれと陸奥守に左遷される。着任するとさっそく毎日のように歌の名所を訪ね歩き、3年後に任地で落馬して死んだ。
命をも罪をも露にたとへけり消えばともにや消えむとすらむ
金葉集・覚樹
ありふるも苦しかりけり長からぬ人の心をいのちともがな
金葉集・相模
*ともがな: …としたいものだ。…であってほしい。 一首の意味は、
「生きて月日をしのいでゆくだけでも辛いなあ。いっそ、長続きしない人の心を、私の命にしてこの人生を切り上げてしまいたい。」