天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

命の歌(5/17)

  命あらば逢ふよもあらむ世の中になど死ぬばかりおもふ心ぞ

                   詞花集・藤原惟成

  変りゆくけしきを見ても生ける身の命をあだに思ひけるかな

                 千載集・殷富門院大輔

  命こそおのが物から憂かりけれあればぞ人をつらしとも見る

                 千載集・皇嘉門院尾張

  思ひ出でて誰をか人のたづねまし憂きにたへたる命ならずば

                    千載集・小式部

*詠み方には執念が現れている。「思い出したから私を訪ようなどということはないでしょう。辛い思いに耐えて私の命があったからです。」

 

  恋ひしなむ命を誰にゆづり置きてつれなき人の果てをみせまし

                     千載集・俊恵

*この歌も凄まじい。「恋い死にするだろうわが命を誰かに譲って、薄情な恋人のなれの果てを見せたいものだ。」

 

  うたがひし命ばかりはありながら契りし中のたえぬべきかな

                   千載集・大弐三位

*前書きに「かたらひける人の久しくおとづれざりければ、つかはしける」とある。

「このうえ生き長らえるかと疑った命は未だ残っているのに、約束し合った仲は絶えてしまったのですね。」

 

  おもひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり

                     千載集・道因

  ちぎりおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり

                   千載集・藤原基俊

*「させも」がよもぎ草のことと判れば、理解できる。すなわち「あなたが約束してくれた、よもぎ草についた恵みの露のような言葉を命と頼んできたが、それもむなしく、今年の秋も過ぎてしまった。」

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岩波文庫