天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

命の歌(7/17)

  命さへあらば見つべき身のはてをしのばむ人のなきぞかなしき

                    新古今集和泉式部

*「命さえあれば亡き私を見届けることは誰にもできるが、思い出して懐かしんでくれる人は誰もいない、それが悲しく思われる。」(新日本古典文学大系

 

  昨日まで逢ふにしかへばと思ひしをけふは命の惜しくもあるかな

                    新古今集藤原頼忠

*本歌や類歌があるが、意味は「昨日まではあなたと逢えるなら命などいらない、と思っていたが、あなたと逢えた今日となってはその命が惜しい。」ということで、相手と一緒にいたい、という気持を詠んだ。

 

  命をばあだなるものと聞きしかどつらきがためは長くもあるかな

                   新古今集・読人しらず

*「人の命とははかないものと聞いていたけれども、つらい(恋をしている)私にとっては長く思われることだなあ。」

 

  生ける世にそむくのみこそうれしけれあすとも待たぬ老の命は

                    拾遺愚草・藤原定家

*ひねくれたような老人を思わせて愉快。

 

  逢ふ事も露の命ももろともに今宵ばかりや限りなるらむ

                    平家物語・平 重衡

*歌の背景には、戦に出かけて行くもののふと恋人との一夜の逢瀬が感じられる。実感がこもっている。

 

  いのちありて逢ひみむことも定めなく思ひし春になりにけるかな

                  新勅撰集・殷富門院大輔

  はかなくもあすの命を頼むかなきのふを過ぎし心ならひに

                    新勅撰集・藤原家隆

  恋ひわびてなど死なばやと思ふらむ人のためなる命ならぬに

                    続古今集・藤原為氏

 

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角川ソフィア文庫