天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

命の歌(9/17)

  生きてあらん命の道に迷ひつつ偽るすらも人は許さず

                     伊藤佐千夫

  さびしさの極みに堪へて天地(あめつち)に寄する命をつくづくと思ふ

                     伊藤佐千夫

  ありがたし今日の一日もわが命めぐみたまへり天(あま)と地(つち)と人と

                     佐佐木信綱

  かしの実のひとつの道にますらをの生(いき)の命をかけつつもとな

                     佐佐木信綱

*「かしの実の」は「ひとつ」や「ひとり」に掛かる枕詞。どんぐりは一つずつなるからである。

もとな:  わけもなく、むやみに。

 

  命一つ身にとどまりて天地(あめつち)のひろくさびしき仲にし息(いき)す

                      窪田空穂

  命あるままに積りし齢なり命の齢なりわがものならず

                      窪田空穂

  かりそめの感と思はず今日を在る我の命の頂点なるを

                      窪田空穂

  あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり

                      斎藤茂吉

*たまきはる: 命にかかる枕詞。

 

  ひたごころ静かになりていねて居りおろそかにせし命なりけり

                      古泉千樫

*ひたごころ: 漢字で直心と表記。ひたむきな心、いちずな心。古泉千樫は、貧困と病弱に苦しみながら創作を続けた。享年42。

 

 伊藤佐千夫、佐佐木信綱、窪田空穂 三者ともに広大な天地の中の小さな命に対する感情を詠んでいる。

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かしの実