命の歌(10/17)
遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし
光無きいのちに在りてあめつちに生くとふことのいかに寂しき
グロキシニアつかみつぶせばしみじみとから紅のいのち忍ばゆ
*グロキシニア: イワタバコ科の常緑または宿根多年草。和名はオオイワギリソウ(大岩桐草)。ブラジル原産。
わがひとり堪ふるによりて君が心安しといはば命もて堪へん
三ヶ島葭子
大地震(おほなゐ)の底よりせちにひろひ来しひとつのいのち湯にし浮きたり
*せちに: ひたすら、しきりに、一途に。
相慕ふ二ついのちの翳らずもひそかには結ぶ天つ日のもと
館山一子
うつそみのいのち一途(いちず)になりにけり生(あ)れまく近き吾子を思へば
五島美代子
*うつそみ: この世(の人)の意で、「世(よ)」「人」「命」「身」にかかる。
二人の子 命またけく生き継がば吾らは吾らの時代に死ぬべし
五島美代子
*またけく: 無事である
吾に来し一つの生命まもりあへず空(くう)にかへしぬ許さるべしや
五島美代子
東日本大震災のような大災害や戦争の惨劇を見聞きするたびに、土岐善麿の思いを抱く。北原白秋の歌は、詩人らしい詠みっぷりと言えよう。
三ヶ島葭子はアララギの島木赤彦の門下となり、今井邦子や原阿佐緒とともにアララギ女流の新鋭と期待されていたが、親友原阿佐緒と妻子のあるアララギ重鎮石原純との恋愛問題に関する論文を「婦人公論」に発表したために破門となった。脳出血により40歳で死去。歌に出てくる「君」とは誰か? かってに想像するしかないか。
五島美代子は母性愛の歌人であったことがよく判る。