命の歌(11/17)
そんならば生命が欲しくないのかと、医者に言はれて、だまりし心!
落葉木の下ゆくわれは死ぬるまで休むことなきいのちを持てり
川田 順
夢さめてさめたる夢は恋はねども春荒寥とわがいのちあり
筏井嘉一
在るまじき命を愛(を)しくうちまもる噴水(ふきあげ)の水は照り崩れつつ
明石海人
おとろへずながき命の末にしてひとりの歌を遂げし西行
窪田章一郎
卓上のものそれぞれに光ありしみじみと惜しわれの命も
窪田章一郎
小(ちひ)さくなりし一つ乳房に触れにけり命終りてなほあたたかし
戦争の日に生きがたきいのちかと二人行きにき彼の白き峡
近藤芳美
見詰め合ういのちの果ての怖れなどいわざれば日は静けさに似む
近藤芳美
ここに取り上げた一連は、みな命の尊さ・有難さをしみじみと詠っている。落葉する木の下で、夢から醒めて、噴水を見上げて、卓上のものを見て、小さくなった乳房に触れて、二人で見つめ合って 等々情景はさまざまなれど、心情が読者にしみじみと伝わる。