天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

命の歌(14/17)

  双乳(もろちち)はよし捨つるともたまきはる命を生きよ乳房なくとも

                     高橋誠一

*乳癌を患って摘出せざるを得ない女性への呼びかけ。相手は奥さんではなく娘さんのような印象だが、さて。

 

  わがいのち暗闇(くらき)に醒めよ わがいのちひかりに熟れよ ナヴェ・ナヴェ・フェヌア

                     高野公彦

*「ナヴェ・ナヴェ・フェヌア」は、ポール・ゴーギャンの版画「かぐわしき大地」のことであろう。その絵を見た時の感想を詠ったと思いたい。

 

  生きてゆくわれの命にふれて吹く風あり風の中より生まれて

                     外塚 喬

  春すぎて飛行機雲を見しものはいのちながらふべきにもあらず

                     永井陽子

*永井陽子の死は自殺だったという噂があるが、この歌はさもあらん、と思わせるほど救いがない。

 

  刻刻と亡びゆく細胞を知らず生くる人間とは何いのちとは何

                     吉野昌夫

  残されたる時間をおもふ残されたるいのちをおもふ時間はいのち

                     吉野昌夫

*吉野昌夫の二首は、命とは何かを深く考えるときに湧いてくる感情である。

 

  命あるうちに遂げんと思ふことあれどつづまりにどうでもよきか

                     佐藤志満

  植えざれば耕さざれば生まざれば見つくすのみの命もつなり

                    馬場あき子

*馬場あき子は結婚したが、子供を授からなかった(あるいはあえて生まなかった)境遇をズバリと表現した。夫君の岩田 正は、先年亡くなった。

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飛行機雲