天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー船(1/7)

 船はもともと容器を意味したという。また「ふね」の「ね」は接尾語であり、「ふ」は水に浮かぶことから「浮」とする説もある。漢字の舟は、中国の小舟を描いた象形文字。よって日本でも舟は小舟を、船は大型船を象徴する。ただし現在の定義では、大きさに関係なく、動力(エンジン)を持つものに「船」を、そうでなく人力によるものに「舟」という字を当てる。

 

  ささなみの志賀の辛崎(からさき)幸(さき)くあれど大宮人の船待ちかねつ

                   万葉集・柿本人麿

*ささなみの: 「志賀」の枕詞。志賀は現在の滋賀県滋賀郡。

「志賀の唐崎という地は、昔とかわらないままであるが、(昔ここを行き来したであろう)大宮人の船にはもう出会えなくなってしまった。」

  天の河安(やす)の渡(わたり)に船浮けて秋立ち待つと妹に告げこそ

                 万葉集・柿本人麿歌集

*「天の川安の渡しに舟浮かべ、秋がくると待っていると妻に告げてよ。」

 

  渡守(わたりもり)船渡せをと呼ぶ声の至らねばかも楫(かぢ)の音(と)のせぬ

                   万葉集・作者未詳

*「「渡し守よ船出せ」とむこう岸から呼ぶ声が届かないので、漕ぐ楫の音が聞こえて来ないのか。」

 

  潮待つとありける船を知らずして悔(くや)しく妹を別れ来にけり

                   万葉集・作者未詳

*「船が潮待ちをしていただけだなんて知らなかった。あの人と別れらしい別れをしてこなかったのが残念でたまらない。」

 

  白崎(しらさき)は幸(さき)くあり待て大船に真(ま)楫(かぢ)繁貫(しじぬ)きまたかへり見む

                   万葉集・作者未詳

*「白崎は、我々の航海が無事であることを祈って待っていて欲しい。大きな船に真楫(まかじ)を付けて行くのだから大丈夫だ。帰ってきたら、またこの白崎を見よう。」

 

  防人の堀江漕ぎ出(づ)る伊豆手(て)舟(ふね)楫(かぢ)取る間なく恋はしげけむ

                   万葉集大伴家持

*「防人が難波堀江から漕ぎ出してゆく伊豆手船、 その楫を漕ぐ手の休む間がないように、防人たちはひっきりなしに故郷の妻を恋しく思っていることであろう。」

 

  いづくにか船(ふな)泊(は)てすらむ安礼(あれ)の岬漕ぎたみ行きし棚無し小舟

                   万葉集高市黒人

*棚無し小舟: 船棚のない丸木舟。

安礼の岬: 二つの説あり。蒲郡市西浦半島の先端にある御前崎豊川市御津町御馬の音羽川河口付近か。

「いったいどこに船泊まりするのであろうか。安礼の崎を漕ぎめぐっていった、あの棚なしの小舟は。」

 

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志賀の辛崎 (WEBから)