天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー船(2/7)

  白波のあとなきかたに行く船も風ぞたよりのしるべなりける

                   古今集・藤原勝臣

*たよりのしるべ: 頼りになる導き手。「たより」には便り(手紙)を掛ける。

「波跡が見えなくなるほど遠くへ行く舟も、私の恋も、風信だけが頼りになる導き手であった。」

 

  はるばると雲居をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな

                     拾遺集・伊勢

*「遥々と雲居をめざして漕ぐ舟のように君の行く末も遠く思えることよ。」

 

  世のなかを何にたとえむ朝ぼらけこぎゆく舟のあとの白波

                   拾遺集・沙弥満誓

*「世の中を何に譬えたらよいだろう。朝早く港を漕ぎ出て行った船の、航跡が残っていないようなものだ。」

 

  難波江のしげき蘆間をこぐ船はさをのおとにぞゆく方をしる

                   詞花集・源 行宗

  かき曇り夕立つ波の荒ければ浮きたる舟ぞしづ心なき

                   新古今集紫式部

  追風にやへの汐路を行く舟のほのかにだにも逢ひ見てしがな

                  新古今集・源 師時

*「行く舟の」までは「ほのかに」(帆を掛けている)を導く序詞。

「追風を受けてはるかな海路を漕いで行く船の帆がほのかに見える――そんな帆のようにたった一目だけでもいいから、逢って見たいものだ。」

 

  よもすがらうら漕ぐ舟はあともなし月ぞのこれるしがの辛崎

                新古今集・宣秋門院丹後

*「夜通し浦を漕ぎ廻っていた舟はもう航跡もとどめない。そしてひとり有明の月が残ってさやかに照らしている志賀の唐崎よ。」(新日本古典文学大系より)

 

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難波江