天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー船(3/7)

  松山の波に流れて来し舟のやがて空しくなりにけるかな

                     山家集西行

  にほの海や霞のをちにこぐ舟のまほにも春のけしきなるかな

                 新勅撰集・式子内親王

*にほの海: 鳰の海で琵琶湖の古称。まほ: 真帆で、いっぱいに広げた状態の帆のこと。

「琵琶湖に浮かぶ霞、その彼方に漕いで行く舟の広がった帆にも春の雰囲気が満ちていることよ。」

 

  物として量り難しな弱き水に重き船しも浮ぶと思へば

                   風雅集・藤原為兼

  秋ふかき八十宇治川の早き瀬に紅葉ぞくだるあけのそほ舟

                    玉葉集・順徳院

*あけのそほ船: 赤い粘土で赤く塗られた船のこと。赭(そほ)は、暗い赤色のような色。茶色に近い。土の色名の一つ。

 

  窗に窗むかひ合ひたる大船の一夜どなりのなつかしげなる

                       大隈言道

  ひさかたの天(あめ)の八(や)隅(すみ)に雲しづみわが居る磯に舟かへり来る

                      伊藤左千夫

  わが船を真中にすゑて円く円く波に輪をかき狭霧たちのぼる

                       石榑千亦

 

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宇治川