乗りもののうたー船(4/7)
海(わた)の沖のしらしら明けに海人小船出でゐる中を汽船すすみをり
木下利玄
韃靼の海(うな)阪(さか)黒しはろばろと越えゆく汽船(ふね)の笛ひびかせぬ
*「韃靼の海阪」とは、タタール海峡(韃靼海峡,最も狭い部分を間宮海峡)を差すのであろう。
舞姫のかり寝姿よ美しき朝京くだる春の川舟
わが傷をわが手にゑぐるかの日より船は忘却の河を求めき
斎藤 史
*船は何の暗喩か? からだ全体を指していよう。
紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく
*「風説のごとく」という直喩が分かりにくい。
水筒の水つめかえて船待てば船は恋ほしくひがしより来る
藪つばきうしほに沁みて空ありきひしひしと船のあつまる朝(あした)
山中智恵子
*上句は、海岸に咲く藪つばきの情景であろう。