乗りもののうたー船(6/7)
眼のくらむまでの炎昼あゆみきて火を放ちたき廃船に遭ふ
伊藤一彦
沈船の窓よりのぼる泡よりもはかなきことをいまこそ言はめ
山田富士郎
ふるさとを捨てたる人に旗あげてサンタ・マリアという船が出る
岡部桂一郎
*サンタ・マリア号: コロンブスによる初の大西洋横断航海のときに使われた3隻の帆船のうちの最大の船。約50人が乗り組んだという。「ふるさとを捨てたる人」とは、誰を差すのか? もちろんこの船に乗っている人たちのことだろう。
白き底見せて干さるる秋の舟をんなは臍より老いてゆくらむ
栗木京子
*解釈に困ってしまう。舟の「白き底」と「をんなの臍」とが呼応しているようだが。要するに連想の世界。
桟橋に泊まれる船は帆に風を孕みて夜の白き貴婦人
白石トシ子
見つつゆく外濠の眺め男ひとりまた女ひとりボート漕ぐあはれ
柴生田稔
*男と女がそれぞれひとりでボートを漕いでいる風景は寂しくあわれ、という。確かに。