天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー汽車、電車(1/5)

 汽車とは、蒸気機関車で客車や貨車を引いて軌道を走る列車のこと。幕末から明治初年は火車,岡蒸気,蒸気車などと呼んだ。

 

  汽車の音の走り過ぎたる垣の外(と)の萌ゆる木末(こぬれ)に煙うづまく

                       正岡子規

  何となく汽車に乗りたく思ひしのみ汽車を下(お)りしにゆくところなし

                       石川啄木

  浜名湖に汽車かかれりと思へども水の湛へを見む心なし

                       杉浦翠子

  網走の海こえて山の雪見ゆる汽車にねむりて眼をさましたり

                       五味保儀

  とどろきて汽車鉄橋を過ぎゐればその深き谿(たに)に咲く花も見ぬ

                      前川佐美雄

  いたく静かに兵載せし汽車は過ぎ行けりこの思ひわが何と言はむかも

                       柴生田稔

*召集された兵士たちが、基地あるいは戦地に向かうために汽車に乗っている情景だろう。下句の思いは読者に共感をよぶ。

 

  東京は再(また)いつ見んといふ妻よあはれ夜の汽車に落ちのびんとす

                       木俣 修

*夫婦で戦火を逃れて東京を離れたのであろう。その後、妻と長男に先立たれた。

 

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汽車