天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー汽車、電車(3/5)

  傷多き鞄をさげし集金夫と待ちをりおくれて着くといふ汽車を

                      真鍋美恵子

  野火のけむり汽車の窓より入りくれば風になりたる母と思ふも

                       大塚陽子

  夜汽車っこさア帰るべし微かなるうす血の翳(かげ)り土を嗅ぎわけ

                    小嵐九八郎

*小嵐九八郎は、秋田県能代市出身の小説家、歌人。方言を大胆に取り入れた軽快な作風が特徴。上句は夜汽車に呼び掛けている風情だが、下句が不可解。

 

  子らが二人待ちゐるゆゑに家なりと雪の夜汽車に目瞑(めつむ)り思ふ

                       河野裕子

  野沢菜の青みが飯に沁みるころ汽車の廊下はゆらゆらと坂

                       吉川宏志

*汽車の中で野沢菜の入った駅弁をたべているようだ。汽車はたまたま坂を上っている。

 

  昏(く)れ方の電車より見き橋脚にうちあたり海へ帰りゆく水

                       田谷 鋭

  朝焼けの冬川の緋(ひ)をわたりゆく電車を乗せてとどろける橋

                      佐佐木幸綱

 

f:id:amanokakeru:20210429063520j:plain

橋脚