乗りもののうたー汽車、電車(3/5)
傷多き鞄をさげし集金夫と待ちをりおくれて着くといふ汽車を
真鍋美恵子
野火のけむり汽車の窓より入りくれば風になりたる母と思ふも
大塚陽子
夜汽車っこさア帰るべし微かなるうす血の翳(かげ)り土を嗅ぎわけ
小嵐九八郎
*小嵐九八郎は、秋田県能代市出身の小説家、歌人。方言を大胆に取り入れた軽快な作風が特徴。上句は夜汽車に呼び掛けている風情だが、下句が不可解。
子らが二人待ちゐるゆゑに家なりと雪の夜汽車に目瞑(めつむ)り思ふ
野沢菜の青みが飯に沁みるころ汽車の廊下はゆらゆらと坂
*汽車の中で野沢菜の入った駅弁をたべているようだ。汽車はたまたま坂を上っている。
昏(く)れ方の電車より見き橋脚にうちあたり海へ帰りゆく水
田谷 鋭
朝焼けの冬川の緋(ひ)をわたりゆく電車を乗せてとどろける橋