天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

数のうた(1/3)

 ここでは、具体的な数の歌ではなく、「数」という字を詠んだ作品をとりあげる。

なお、すでに2015-09-13に「数のうた」として一部を取り上げているが、ここでは、あらためて包括的に多くの作品をまとめておく。

数無し、数ならず: 物の数ではない。取るに足らない。はかない。

水に数書く: 水の上に物の数を書きつけること。無駄、はかないというたとえ。

 

  塵(ちり)泥(ひぢ)の数にもあらぬわれ故に思ひわぶらむ妹(いも)が悲しさ

                  万葉集中臣宅守

*「塵や泥みたいなものの数にも入らぬ自分のために、悩み気に病んでくれるあなたがいとおしい。」

 

  水の上に数書く如きわが命妹に逢はむと祈誓(うけ)ひつるかも

                万葉集・柿本人麿歌集

  うつせみは数なき身なり山川の清けき見つつ道を尋ねな

                  万葉集大伴家持

  暁のしぎのはねがきもも羽がき君がこぬ夜はわれぞかずかく

                 古今集・読人しらず

*しぎのはねがき: 鴫の羽根掻。夜明け方、シギが、くちばしで羽毛を何度も何度もしごくこと。また、物事の回数が多いことのたとえ。ももはがき。(精選版 日本国語大辞典

 

  花がたみめならぶ人のあまたあれば忘られぬらむ数ならぬ身は

                 古今集・読人しらず

*花がたみ: 「目並ぶ」に係る枕詞。  めならぶ: 見比べる。

 

  かつみつつかげ離れ行く水の面(おも)にかく数ならぬ身をいかにせむ

                  拾遺集斎宮女御

*「私が見ているそばで、帝のお姿が、遠ざかってゆく。流れゆく水の面に数を書くように果敢ない、人の数にも入らない我が身をどうすればよいのだろう。」

 

  かずならぬ身は心だになからなむ思ひ知らずば怨みざるべく

                 拾遺集・読人しらず

*「物の数でもない私にはいっそ心なんかなければいい。そうすればこんなにあなたを怨まないだろうから」

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鴫(シギ)