戦争を詠むー兵(5/5)
インパール戦の生き残り兵寡黙にて菊に水遣る朝に夕べに
木村光子
*インパール戦: イギリス領インド帝国北東部の都市であるインパール攻略を目指した戦のこと。兵站を無視し精神論を重視した杜撰な作戦により、多くの犠牲を出して歴史的敗北を喫した。
必定の死を前提に一日(いちにち)一日(いちにち)生きて迷ひなき兵の日ありき
吉野昌夫
地に深くひそみ戦ふ タリバンの少年兵を われは蔑(な)みせず
兵士には多くの子らも混じれると外電は伝ふ声を抑へて
佐藤通雅
ナースとして生きゆくことを洩らししとふ女兵士も銃殺されぬ
山村泰彦
ざくざくと林檎を齧るざくざくと砂行く兵士の足音させて
三井 修
*林檎を齧るざくざくという音から砂行く兵士を連想した、と解釈するのだろう。
学徒兵の友が残せる万葉集別離の歌のページ折られあり
森川平八
学徒兵われの征(ゆ)きけるたかぶりの目の奥にゐし小さな母よ
斎藤祥郎
*学徒兵である作者の出征を見送る小さな母の姿がなんとも哀れで悲しい。