天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

戦争を詠むー出征

 出征とは軍隊の一員として戦地に出発すること。

 

  たたかひの島に向ふと ひそかなる思ひをもりて、親子ねむりぬ

                        釈 迢空

  若くして 心真直(マナホ)に征きにける伍長一人を 心にたもつ

                        折口春洋

*折口春洋は、折口信夫釈迢空)の短歌の弟子であり養子関係を結んだが、同性愛者であった折口の実質的な愛人であったという。前の釈迢空の歌もこうした背景下で鑑賞するのだ。

 

  弟の征く日まぢかし何をかも告げむとするや我はしきりに

                       前川佐美雄

  心決して征(ゆ)かむ朝(あした)よ白々と双葉の山に雲光りたり

                        渡辺直己

  戦へば必ず勝つと露深き草生(くさふ)の径を踏みて出征(いでた)つ

                        宮 柊二

*作者は、昭和14年日本製鉄にはいり、同年応召で中国各地を転戦。山西省で足掛け5年兵士として過ごした。

 

  征く君と話少なしなほ生きて世の移るさま見たしとも言ふ

                        近藤芳美

*作者は、第2次世界大戦中の 1940年に召集され,中国に送られた。

 

  辞書一冊わが手に遺し南海へ征くと書き来て君の帰らず

                       山本かね子

  「勝つもまた悲し」と征きて遺したる学生のその黄金(きん)色のことば

                        上村典子

  読みさしの本に栞をはさみこみ征かねばならぬ学のなかばに

                       三浦富美子

  学徒出陣はじまりし年にわが生(あ)れて親しまず来つ死(サナトス)日本

                        伊藤一彦

*サナトス: タナトスとも言う。ギリシア神話に登場するそのものを神格化した神。

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学徒出陣