戦争を詠むー戦い(3/6)
今のわが齢おもへばわが父よ東京空襲の火中(ほなか)なりける
窪田章一郎
中国に兵なりし日の五ヶ年をしみじみと思ふ戦争は悪だ
宮 柊二
たたかひを終りたる身を遊ばせて石(いは)群(むらが)れる谷川を越ゆ
宮 柊二
戦争を拒まむとする学生ら黒く喪の列のごとく過ぎ行く
近藤芳美
次つぎに警棒の下血に染まる彼ら戦いを知らぬ青春
近藤芳美
*近藤芳美(1913年― 2006年)は、東京工業大学卒業後、清水建設に入社。設計技師として勤務する傍ら、アララギ同人としての活動を継続した。戦時中は中国戦線に召集された。戦後1948年、刊行の歌集『埃吹く街』で注目を集め、戦後派歌人の旗手としてデビューした。
論理するどく行動きびしき学生の父の多くは戦ひに死す
*戦中の父の世代と戦後の学生運動盛んな子の世代との対比。
硫気吹く島のいくさに手も足も焼けうせてなほ子は生きてゐよ
食料に供出せよと強いられて葦刈りぬ母と戦いの日は
武川忠一
*葦は河川及び湖沼の水際に背の高い群落を形成する。建築や紙の材料として活用できるほかに、肥料、燃料、食料、生薬原料、漁具、葦ペン、ヨシパルプなどの用途がある。