天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

戦争を詠むー戦い(4/6)

  食料に供出せよと強いられて葦刈りぬ母と戦いの日は

                         武川忠一

*葦は河川及び湖沼の水際に背の高い群落を形成する。建築や紙の材料として活用できるほかに、肥料、燃料、食料、生薬原料、漁具、葦ペン、ヨシパルプなどの用途がある。

 

  一国がきらめく匕首(あいくち)にかわるとき誰かが誰かの戦争にゆくとき

                         岡井 隆

  闘いは日常という思想さえあわあわと花 ひえびえと空

                         岡井 隆

  夜の雪のはげしきに発(た)ちし馬の群戦ひてつひに還るなかりき

                         岡部文夫

*敗戦にあっては、戦場の軍馬はほとんどが死んだのであろう。食料にされた場合もあったらしい。

 

  わがたより渚の砂に埋めしと聞きしかな杳き戦ひの日に

                         馬場園枝

*戦地で受け取った手紙を、死を決した身には不要と渚の砂に埋めたのだろう。作者はそのことを戦後に聞いたという。戦いの無残さを感じる。

 

  戦いのおきれば獄を選ばんと思いしより妻の愛しくてならぬ

                         古明地実

  報復の戦ひをすと聞くにだに<男>なる眼はうるほひを帯ぶ

                         阿木津英

 

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匕首(あいくち)