天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

戦争を詠むー終戦・敗戦(1/3)

  敗戦の餓ゑ迫る日に生れいでてこの児は乳を吸ひやまぬかも

                         筏井嘉一

  敗戦をはぐらかすものなべて地にひきずり降し批判なすべし

                        小名木綱夫

  椰子林の青きは燃ゆるごとくにて月出づれば敗戦の隊を点呼す

                         前田 透

  国やぶれて山河あり今宵さやかなる大空の月を仰ぐに堪へず

                        佐佐木信綱

*国やぶれて山河あり: 杜甫の詩『春望』の冒頭の句「国破れて山河あり、城春にして草木深し・・・」から。戦乱で国が滅びても、山や川の自然はもとのままのなつかしい姿で存在している、という感慨の表現。

 

  終戦のち一年を過ぎ世をおそる生きながらへて死をもおそるる

                         斎藤茂吉

終戦時(1945年)に、茂吉は63歳であった。それから7年後に70歳で亡くなった。

 

  おしなべて煙る野山かー、照る日すら夢と思ほゆ。国やぶれつつ

                         釈 迢空

  新しき世に立つ子らは敗戦といふことを吾より早く忘れむ

                         松村英一

  敗戦といふ感じなく軍うつる荷物のなかに老いわれは立つ

                         橋本徳寿

 

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椰子林