天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

呪われた従軍歌集(4/10) 

 小泉苳三は昭和八年一月「ポトナム」誌上で、「現実的新抒情主義短歌の提唱」を結社の指針とした。『山西前線』は、その後に出した最初の歌集であり、この提唱の具体例となるはずのものであった。小泉苳三は、『評釈・大伴家持全集』(大正十五年五月)に見られる家持研究を通して、「春愁三絶」を最初に発見し評価した歌人であり、家持の抒情精神を継承していると、愛弟子である古代漢字学の泰斗・白川静は言う。

現実的新抒情主義とは、苳三の言葉では、次のようになっている。

  「現実生活」の構造が急速に変化し、「全

く別様な現実」を見せ、そのためにわれわ

れの「現実感」が極めて複雑になっている。

諸現象は「生々とした現実感」による文学

的具象化を要求する。よって一首の表現に

あたっては、その一首に、一首以前のすべ

てを注ぎこまねばならない。其処に現実感

の核心を把握する彫心の苦もあるであろう。

まことに抽象的であり、技法がよく分らないが、ともかくその実践例を見て行こう。

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小泉苳三歌集