恋(3/13)
川の瀬になびく玉藻のみがくれて人にしられぬ恋もするかな
古今集・紀 友則
宵のまもはかなく見ゆる夏虫にまどひまされる恋もするかな
古今集・紀 友則
*「まだ宵のうちでもはかなく見える夏の虫よりも、いっそうひどく迷っているようなはげしい恋をすることだなあ。」
種しあれば岩にも松は生ひにけり恋ひをし恋ひばあはざらめやも
古今集・読人しらず
夕づく夜さすや岡辺の松の葉のいつともわかぬ恋もするかな
古今集・読人しらず
*「夕月が射している岡辺の松の葉が、いつとも季節をわかず緑であるように、私はずっと思い続け、いつも変わらぬ恋をすることであるよ。」
郭公(ほととぎす)鳴くや五月(さつき)のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな
古今集・読人しらず
枕よりあとより恋の責めくればせむ方なみぞ床なかにをる
古今集・読人しらず
*「枕の方からも足の方からも恋が迫ってくるので、しかたがないので寝床の真中にいる。」
わが恋はまきの下葉にもるしぐれぬるとも袖の色に出でめや
*「私の恋は、真木の下葉に洩れる時雨が葉を濡らしても紅葉しないように、私の袖も涙に濡れても決して色には出さないのです。」