恋(10/13)
かき抱くものは花屑ばかりにてみなかたちなきひと世の恋も
大野誠夫
恋といふ孤独なるもの我は見る流れの岸にあそぶ二人を
田谷 鋭
夏の間の若き蛍はひたぶるに光りを交はす恋しづかなり
山本鳩世
みづからはうらみじといふ恋もなく過ぎたりし世か永し短し
築地正子
*うらみじ: 恨むまい(恨むことはするまい)。
いずこかに苦しき恋のあるごとし夕闇の下鴉族(あぞく)は騒ぐ
三井 修
はなみづき恋のつづきの家族にて咲き盛る白が痛くてならぬ
川野里子
*はなみづき: ハナミズキ。北アメリカ原産。日本における植栽は、1912年に当時の東京市長であった尾崎行雄が、アメリカ合衆国ワシントンD.C.へ桜を贈った際、1915年にその返礼として贈られたのが始まり。花期は4月下旬から5月上旬で、通常は白い花をつける。
難き恋とげて結びし命二つ君に先立つことあらめやも
梶井重雄