別れを詠む(1/10)
別れとは、別々になる、関係を断つ、離れ離れになる などの意味を有する。様々な別れがある。人との別れ、ペットとの別れ、故郷との別れ。背景には、何らかの理由があるのだが、和歌、短歌に詠まれる場合は、多く人との別れである。二度と会わないであろう別れが、人にとって感情が最も高まる。心に浸みる作品が多い。
短歌の良さを知るには、まず別れの歌を多く読むことから始めるべし、と思うようになった。
大夫(ますらを)の靭(ゆき)取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻
妹もわれも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる
*「二見(ふたみ)の道」は愛知県豊川市御油町と国府町の分かれ道。「一つ」、「三河」、「二見」の数字を詠みこんでいる。作者は、柿本人麻呂とほぼ同時期の歌人で、《万葉集》に羇旅歌18首を残している。
いのちだに心にかなふものならば何かわかれの悲しからまし
古今集・白女
*詞書に「源実(さね)が、筑紫へ湯浴みむとてまかりける時に、山崎にて別れ惜しみける所にて、
よめる」とある。白女は、源実が旅の途上で知り合った女性であろう。
ありあけのつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
老いぬればさらぬ別れのありといへばいよいよ見まくほしき君かな
*老いて死期の近い母が、息子の業平に会いたいという願いを詠んでいる。
世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もとなげく人の子のため
*母が業平に送ってきた上の歌に対する返歌である。
しののめの別れを惜しみわれぞまづ鳥よりさきに鳴きはじめつる
古今集・寵
*後朝の別れの歌。作者の寵(うつく)は、大納言源定の孫。従四位上大和守源精の娘という。
「明け方の別れが惜しいので、鳥が鳴くよりも早く、まず自分が泣けてきたことです。」
糸によるものならなくに別れ路の心ぼそくも思はゆるかな
古今集・紀 貫之
*「よる」「ほそく」は「糸」の縁語。
「意図によるものではないのに、吾妻との別れ路が、心細く思われる。」