別れを詠む(3/10)
たのむれど心かはりてかへり来ばこれぞやがての別れなるべき
千載集・藤原顕輔
*「たのむれど」の「たのむ」は、約束して期待させること。一首の意味は、
「またきっと会えるとあなたは請け合ってくれるけれど、心変わりして帰ってくるなら、この別れがそのまま永遠の別れになるでしょう。」
はる霞かすみし空のなごりさへ今日をかぎりの別れなりけり
新古今集・藤原良経
かりそめの別れとけふを思へども今やまことの旅にあるらむ
新古今集・俊恵
かりそめの旅の別れとしのぶれど老は涙もえこそとどめね
*「一時的な旅の別れと耐えることはできるけど、いつ今生の別れとなるか分からない年老いた身は、涙も抑えることはできない。」
しろたへの袖のわかれに露おちて身にしむいろの秋風ぞふく
待つよひに更けゆく鐘の声きけばあかぬわかれの鳥はものかは
新古今集・小侍従
*一首の意味は、「恋人を待つ宵の更けていくことを知らせる鐘の音を聞けば、恋人との逢瀬の後でまだ一緒にいたくても別れる時を告げる朝の鳥の声など、物の数に入るだろうか。」
小侍従は、平安末期・鎌倉初期の女流歌人。「待つ宵にふけゆく鐘の声きけばあかぬ別れのとりはものかは」という秀歌を詠み「待宵の小侍従」と呼ばれた。
面影のわすらるまじきわかれかななごりを人の月にとどめて
*下句は、「別れた後も、あの人が名残りを月の光のうちに留めていて。」ということ。