晩年を詠む(3/3)
晩年のわが手を引くは誰ならむ盲(むしひ)の犬と春の土手ゆく
伊勢方信
いかがなる晩年来ると思ひしが至りてみればごく当り前
斎藤 史
八月の影ある道は晩年の日々のかなしみよみがへらしむ
秋葉四郎
*晩年とは誰の晩年なのか? 作者の晩年なのか、あるいは例えば斎藤茂吉についてのことか。作者自身のことと解釈するのが自然だろう。(作者は現時点で83歳。健在なのだ。)
母を一人にしてゐるわれは晩年を一人棲むべし紙を友とし
夫一人をもてあましつつ恣(ほしいまま)に老い耄けし権力者の晩年を読む
石川不二子
一マイル走り終へたる馬の肌よりあたたかき晩年を母に
山田富士郎
*馬の肌と母の晩年とを結びつけるとは、なんとも独特な感性。