天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

出でよ世紀の西行(6/6)

 以下、現代の西行に要請される条件をまとめておく。対極にある定家、塚本の特徴は、定住・妻帯者。短歌の形式は、三十一字の苦患であるとし、極限まで酷使して、詞が先の「もみもみ」体で前衛・仮象の美を求めた。

 現代の藤原定家である塚本邦雄は、「短歌に幻を視る以外何の使命があらう」として、サンボリズムを提唱し、喩の世界に棲む。一方、われらが西行は漂泊者。後鳥羽上皇をして、生得の歌人と賛嘆せしめた歌詠みである。風情が先で詞は後、の心のままに詞が匂う平懐体の歌を特徴とする。「知る」「思ひ知る」という動詞を盛んに用いて涙を詠むことが多い。藤原定家西行に共通していたのは、花鳥風月に託して思いを述べる王朝様式であった。塚本邦雄と出現を期待される今世紀の西行に共通している素材は、戦争、宗教、人工の都市、科学そして破壊されゆく自然である。

 現代の西行は、八百十数年前の西行の二番煎じではない心の歌を、抒情は風のごとく自在に詠まねばならない。

 

主な参考文献

(1)桑原博史『西行物語 全訳注』講談社学術文庫                    

(2)佐々木信綱校訂『山家集岩波文庫

(3)白洲正子西行』新潮社

(4)伊藤博之西行芭蕉詩学』大修館書店

(5)西郷信綱『詩の発生』未来社

(6)坂井修一『塚本邦雄本阿弥書店

(7)塚本邦雄『獨断の栄耀』葉文館

 

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新潮社

 

[註]本論考は、2001年3月頃に完成したものであり、未発表であった。