短歌における表記の効用(2/8)
◆ひらがな、カタカナ 2/4
通常、散文では漢字表記する言葉がひらがなで出てくると、読者は一瞬立ち止まり、言葉を理解するために漢字をあてはめようとする。軽い謎解きの過程が入ってくるのである。
うつぶせにをりあをだたみいまははや遠いところにある土ふまず
『滴滴集』
みちのくの面白山(おもしろやま)にうさぎ出て雪はしら雪あしあとのうたげ
海草の靡けるうみを見下ろせりかなしきくにの卑奴母離(ひなもり)われは
ヌードルに「かやく」を乗せて湯そそぎすかやく火薬と人なおもひそ
『山鳩集』
「紉蘭」の意味を尋ねてたづね得ず滲める墨はいよいよにじむ
トリニダード「三位一体」而(しかう)してトバゴは「たばこ」 夕陽が赤い
『思川の岸辺』
*結句以外は、国名トリニダード・トバゴの言葉の成り立ちの説明である。
よろこびに満ちてふたりはただ居ればわが感情はしづかとなりぬ
バケツに首突つこんで水飲んでゐるうしろすがたもしみじみ女猫
蝉のこゑさへも途絶えてまひるあり黒日傘の人あゆむひそけさ
わが過ぎてゆきたるときに紅梅の中よりまさにうぐひすのこゑ
送り火におくられ帰るたましひといふものがたりなどてかなしむ
いちにちをきよらにあれと願へれどすでにたばこを吸ひてしまへり
鳥の糞みちのべの石に落ちてゐて忘れえぬまでしろきゆふぐれ
『梨の花』
ゆくりなくおもひいでたりフォークダンス異性の髪のにほふせつなさ
あけがたの小(ち)さき地震に目覚めたりふたたびねむることのあはれさ
息つめて引き抜きにけりしろがねのかがやきもてる鼻毛いつぽん