短歌における表記の効用(6/8)
◆漢字の読み・ふりがな 2/3
什麼生(そもさん)といふが如くに青蛙芋の葉に居るゆふまぐれどき
『静物』
伸びあがりバケツのなかに没したり渠(かれ)のあたまの小さくもあるか
*渠(かれ)=この歌では、指示代名詞。それ、かれ(第三人称の代名詞)。
だらしないのだらしはしだらの倒(たう)にして梵語sutoraを根源とする
『滴滴集』
百代の先なる祖(おや)はわれに似ず鯨面文身(げいめんぶんしん)ときに
「噫(ああ)」といふ
海草の靡けるうみを見下ろせりかなしきくにの卑奴母離(ひなもり)われは
蓮のたね黒きひとつの運命は南凕(なんめい)ふかく沈みたるべし
和種(わしゆ)の魚(ぎよ)のいのちあやぶみ恐れつつ皇居の濠を春の日あばく
操觚者(さうこしや)を父にもちたる運命にもの書くむすめ書かざるむすめ
『時のめぐりに』
*操觚者(さうこしや)とは、文筆に従事する人。著述家・編纂者・新聞や雑誌の記者など。
穿鼻男(せんびを)と穿耳女(せんじめ)とあひたづさへて浅草観音の階段のぼる
黄月(わうげつ)のしづくぬらせる石階(せきかい)に磨滅せぬものはただ言葉
のみ
運命にのがるるすべのあるごとくこの夜杜鵑(とけん)のこゑはふたたび
歯車の噛み合ふときにはさまりし砂粒(さりふ)なんといふひびきを立つる
わが趣味に観地図ありてみてをれる五万分の一「夢金浦(モンクムポ)」
エレベーターに乗らむとすれば現身(げんしん)の相撲取りひとりが先に乗り
ゐる
少年よ文字を惧(おそ)れよ漂泊と漂白の間(ま)に人のいとなみがある
漢方のその名をめでて服まむとす半夏白朮天麻湯(はんげびやくじゆつ
てんまたう)いざ