短歌における表記の効用(7/8)
◆漢字の読み・ふりがな 3/3
*この表記の効果は、やはり読者の注目を集めるところにある。一瞬、そこで立ち止まり、背景を探ろうとする。納得すると感心し、勉強になった気分になる。
覿面(てきめん)にまたたび効(き)いてころがれる猫のひとみは気泡のごとし
『時のめぐりに』
ピスタチオのひとふくろの実をことごとくわが腹蔵(ふくざう)し春の日暮れぬ
蹲踞(つくばひ)は庭先にあり蹲踞(そんきよ)はもはら土俵のうへにこれをおこなふ
『山鳩集』
日本の難訓駅に驫木ありいまぞ停まれるそのとどろきに
「る」の文字(もんじ)むづかしきもの多くして鏤骨、瑠璃玻璃、縷々、盧舎那仏
掃討と剿討の差をかんがへて少しののちに飯くひにゆく
公然たる偽物はすでに真物(しんぶつ)なりみにくいあひるの子がそれを教へる
滴型(てきけい)のなみだを放つ少年をり二滴三滴まんがの中に
小橋(せうけう)の赤き欄干掘割の水にうつるも寒き日のこと
『梨の花』
町川のおもてを照らす冬の日に白鯉(はくり)うかび来(く)かがやくごとし
さまざまな編曲(アレンジ)収めし「海ゆかば」のCDを聴く夏ちかづきて
「口食(こうしよく)の官能(くわんのう)」といふことばありしばし目とまる
茂吉のうたに
山襞に消(け)のこる雪を光らせてけふは秩父のやまなみが見ゆ
めんどりの腹を割(ひ)らけば順々に生まれるたまご連なりありき
林間に基部(きぶ)をもちたる鉄塔が春雲のそらにつきささりをり