短歌における表記の効用(8/8)
◆漢字の成り立ち・分解
右左(みぎひだり)対象文字の例として木口小平は記憶せらるべし
『日々の思い出』
「讒(ざん)」の字の二十四掻画を数へつつ白紙のうへに書くことのなし
『草の庭』
月見草見むとひとりの言ひたれば笛吹く川の川原に出でつ
『静物』
*笛吹川と言わず。
くろぐろと葡萄のつぶは地を這へる葡萄前進、前進やまず
(匍匐前進というところ)
『滴滴集』
人にいふことにあらねどなにげなし躑躅と髑髏かんじ似てゐる
女の眉が媚(こび)にて女の鼻が嬶(かかあ) 女の口はわらへる如し
「太初(はじめ)にことばありき」あんめれ鉄砲水と水鉄砲はほとほと違ふ
「楽しむ」と「愉しむ」とありいつよりか愉しむの字をわれは嫌へる
『時のめぐりに』
「調教士」ならず「調教師」なることもはつか奇異なる感じをとどむ
入れ墨の辛き女を「妾(せふ)」と云ふわらはともいひわたしともいふ
*妾という字の原義から読み方に関心して歌に詠む。
身体の秘(ひ)のきはまりに末魔あり末魔断つこと断末魔なり
『山鳩集』
これの世に「牛耳る」ありて「馬耳(ばじ)る」なし対称性のくづれを言はば
「東北線土呂(とろ)のとなりは土々呂(ととろ)にて電車はつひに停まらぬところ」
『思川の岸辺』
「看山(かんざん)」といふことばあり立ちゐつつただひたすらに山を看(み)ること
『梨の花』