身体の部分を詠むー歯(3/3)
桃よりも梨の歯ざはり愛するを時代は桃にちかき歯ざはり
わが朽ち歯治しくれたる老医いふ来りてなほもわれを頼めと
北沢郁子
なきがらの歯の美しと悲しみしことありしかど誰が歯なりけむ
竹山 広
*長崎で原爆死した人たちを見た時の思い出であろう。
斯くしつつ命終らん三四本残る歯のうち一本を欠く
佐藤志満
肉色の入歯を持ちて師は言いぬ「佳い歌だけど面白くない」
毛利文平
*師が歌の批評をしたときに、師の肉色の入歯が目立ったのだ。少し憎しみの感情が入ったのかも。
美しく義歯は並べり義母なれば義の字ふたつを思いつづける
足立昭子
臼歯二つ次ぎて易々脱落す吾よりさきに世の務め終へて
小暮政次
*臼歯: 哺乳類の上下両顎の左右最後部に位置する歯をさす。
暗く開(あ)く土間入りゆくに鎌を研ぐ伯父の歯白くわれを迎へき
金戸紀美子
歯型にて本人確認するといふ歯はさびしくてそを磨きをり
大口玲子
*作者は本人確認される立場なのだ。あらためて歯磨きをしておく必要あり。
世界言語交換し合ふ人類の白き歯見ゆるエアターミナル
香川ヒサ
*空港ではさまざまの言語が飛び交う。開けた口から、それぞれの白い歯が見える。