天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー舌(1/2)

 舌(した)は俗語でベロとも呼ぶが、動物の口の中にある器官で、食物を飲み込む時、言葉をしゃべる時などに使われる。舌は喋ることの象徴であり、「二枚舌」、「舌が回る」などの表現がある。

  猫の舌のうすらに紅(あか)き手ざはりのこの悲しさを知りそめにけり

                      斎藤茂吉

  舌を刺す鰯(いわし)を分けて喰ふ夕餉妻にたぬしき事もなからむ

                      近藤芳美

  日本になほたのしみて葡萄吸ふ老婆ら、赤き舌ひらめかせ

                      塚本邦雄

*「赤き舌」がなんとも不気味で艶めかしい。

 

  とめどなき舌のそよぎに聞きほれて妄想びととある日をりけり

                      片山貞美

*相手は妄想からさまざまな話を作者にしたのだ。作者には、とめどない舌のそよぎとして印象に残った。

 

  朝鳥の来鳴く欅の窓を近み四十雀の小さき舌見ゆるなり

                     佐佐木幸綱

  冬木らはののしる舌を持たざればわれを居らしむ心しづかに

                      川田 順

*「ののしる舌」という表現から、作者はなにかこころにやましいことを抱えていたのだろうか。

 

  けだものの舌のひびきのやさしくて眠りのうちらあへなくひとり

                      小野茂

*あへなし: 張り合いがない、あっけない。

 

  嬰児は舌くぼめつつ出入(だしいれ)すいまだ意識の無かるならめど

                      宮 柊二

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