天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー目(4/9)

  をさなごの眼の見えそむる冬にして天(あめ)あをき日をわが涙垂(た)る

                       前川佐美雄

  片ときも心しづまらぬわが身にて昼すぎ水の中に眼を開(あ)く

                       前川佐美雄

  埴輪の目もちて語れる人と人 砂丘(をか)円くめぐれる中

                        葛原妙子

和辻哲郎に「人物埴輪の眼」という随筆がある。埴輪の眼には、顔面に生気を与え、埴輪人形全体を生き生きとさせる働きがある、と指摘している。

 

  あきらかにものをみむとしまづあきらかに目を閉ざしたり

                        葛原妙子

  壕(がう)の中に坐(ざ)せしめて撃ちし朱占匪(しゅせんぴ)は哀願もせず眼を

  あきしまま                 渡辺直己

*作者は、昭和12年日中戦争に応召し、河北省天津市山東省済南市、湖北省漢口に転戦したが、昭和14年天津市にて洪水により死亡、31歳であった。この歌は、自身の体験ではないようだ。

 

  白きうさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り

                        斎藤 史

*殺された動物は、大体が眼を開いているのではないか。

 

  借金をかへすひたぶるを虚しと言ふ虚しと聞きて眼をしばたたく

                        山本友一

*ひたぶる: いちずなさま。

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埴輪