天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー肩(1/2)

 肩は人の腕が胴体に接続する部分の上部、および、そこから首の付け根にかけての部分をさす。いくつもの比喩、成句、慣用句がある。肩書き、肩を貸す、肩の荷が下りるなど。

 

  今年行く新島守が麻衣肩のまよひは誰が取り見む

                  万葉集・作者未詳

*「今年行く、新しい防人の麻の衣の肩のほつれは、誰が繕ってやるのだろうか。」

 

  くらべこし振分(ふりわけ)髪(がみ)も肩すぎぬ君ならずして誰(たれ)かあぐべき

                      伊勢物語

  きのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ

                     与謝野晶子

  肩痩せて嚢(ふくろ)重しとかこつなり市にもの乞ふ良寛あはれ

                      吉井 勇

*かこつ: 心が満たされず、不平を言うこと。

 

  父生きてありし日の肩大きかりし 摑まむとしてつね喪ひき

                      葛原妙子

  長き材の重心をいま肩にとり歩みゆくさま電車より見ゆ

                      田谷 鋭

  そばだちて寂しき肩を張る山の今日見えがたし曇る秋日に

                      安永蕗子

  死後のわれは身かろくどこへも現れむたとへばきみの肩にも乗りて

                     中城ふみ子

  春蝉の死への合唱 少年のやはらかき咽喉わが肩に触れ

                      塚本邦雄

*上句がいかにも塚本らしい。

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振分髪