身体の部分を詠むー背(1/2)
久方のあまつみ空は高けれどせをくぐめてぞ我は世にすむ
夫木抄・宗尊親王
闇を背にまじまじと孤(ひと)つ保ちいる水銀灯に雨のしたたる
高安国世
*まじまじと: 目をすえじっと見つめるさま。水銀灯を擬人化している。
暖かき日ざしの窓に背をむけて記憶の断片をつなぎつつゐる
藤岡武雄
われの背に残照がある窪地にて風はしばらく輪をなし廻る
斎藤 史
強ひて抱けばわが背を撲ちて弾みたる拳をもてり燃え来る美し
小野茂樹
梯子の男夕日のなかへのぼりゆくくろくきやかに背(せな)をまろめて
加藤克己
てのひらの迷路の渦をさまよへるてんたう虫の背の赤と黒
一心に釘打つ吾を後より見るなかれ背は暗きのつぺらぼう
富小路禎子
背に負へばよく笑ふ子の生ひ立ちて迎合の声をあぐる日あらん
*人間の生きる哀歓を詠い続けた作者らしい作品といえる。