身体の部分を詠むー腕(2/3)
取材せし船より酔ひて来し夫の額冴えつつわが腕の中
三國玲子
抱き来し女の肩を放したる用なき腕を垂らして帰る
乾燥炉の火を搔きまはしゐる腕(かひな)細きながらに筋肉動く
大平修身
*乾燥炉: 各種の熱源を使用し、水分・溶剤・接着剤などあらゆる物の乾燥処理を行う装置。用途によって大小さまざまな種類がある。
羊のやうにありたる過去よわれもまた種痘の創(きづ)を腕に遺して
*種痘 とは、 天然痘 の 予防接種 のこと。 ワクチン をY字型の器具(二又針)に付着させて人の上腕部に刺し、傷を付けて皮内に接種する。 1980年 に 天然痘ウイルス は撲滅され、自然界に存在しないものとされているため、 1976年 を境に日本では行われていない。(辞典による)
ほそき腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引きあげてくる
おのづから塩噴き出づる腕ありき海より上がる人のかなしみ
櫟原 聡