天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー喉(2/2)

  全天の紅葉を仰ぎひつそりと圧(お)されてゐたる男(を)ののどぼとけ

                        小池 光

  わが咽喉(のど)の仮性球(かせいきゅう)麻痺(まひ)ものを食(は)みものを飲むとき

  常に苦しむ                 宮 柊二

*仮性球麻痺: 発声ができにくくなったり喋れても同語反復をしたりなどといった症状を指す。

 

  かつてわが胎にありしをふとぶととトロンボーンを吹くのどぼとけ

                       久々湊盁子

  歳晩ののみどを透きてくだりゆく酢牡蛎のゆくへ冷酒のはて

                        増谷龍三

  わが声を受けて膨らむ喉(のみど)あり言葉とは青き魚の動き

                        行方裕美

*結句の比喩が独特だが、作者の声に答えようとする相手の喉の状況であろう。

 

  これだけはと思ひゐし言葉投げたればむづりと動く子の喉仏

                       本渡真木子

  迷彩服着たる幼が機関銃提げたるままに咽喉(のみど)を見する

                        山村泰彦

  息つめて吞みこむ唾は逃げるごと一心不乱にわが喉くだる

                       岡部桂一郎

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トロンボーン