天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー額(1/2)

 ひたい、ぬか。「額づく」は、拝礼すること。

 

  相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼(がき)の後(しりへ)に額づくがごと

                    万葉集・笠 女郎

*笠女郎が大伴家持に贈った二十四首の相聞歌のうちの一首で有名。

 

  この額(ひたひ)ただ拳銃(ぴすとる)の銃口(つつぐち)を当つるにふさふ

  ところなるべき               吉井 勇

 

  うつくしき入日のなごり空に顕(た)ちおもむろにして額を照らす

                       尾山篤二郎

*おもむろに: ゆっくりと。他に「不意に」という場合もある。

 

  やみがたく清きを糞(ねが)ふこの夜半(よは)のわれは机(つくゑ)に額押し当つ

                        吉野秀雄

  額(ぬか)の真中(まなか)に弾丸(たま)をうけたるおもかげの立居に憑(つ)きて

  夏のおどろや                斎藤 史

 

*上句は二・二六事件で処刑された、父を通じて親交があった青年将校のこと。

 

  はつなつのゆふべひたひを光らせて保険屋が遠き死を売りにくる

                        塚本邦雄

  無明なる額(ぬか)に想へば夜の果てを雷に撃たるる波もあるべし

                        安永蕗子

*下句の内容からすれば、わざわざ上句が必要とも思えないが。状況が想像しにくい。

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拳銃