枕詞要約
枕詞の全容について整理しておきたく、内藤弘筰『枕詞便覧』(早稲田出版)
から以下に要約してみた。
■枕詞は上代文学の修辞法の一つ(現代における位置づけ)。但し当時は修辞法という概念はなかった。平安時代には「発語」と呼ばれていたようだ。「枕詞」という文字は室町時代になってから使われるようになった。江戸時代には、「かざし」や「冠詞」などが文学者によって定められた、
■個人が勝手に新しい詞を創り出したり、別の言葉と結び付けたりすろことは許されていない。一つの枕詞の長さは、語と呼ばれる範囲のもので、五音のものが最も多く、七音を二つに分けた三音や四音のものもあるが少ない。七音のものでも二語あるのみ。
■「被枕」との関連性
➀「被枕」の意味を修飾するもの
あしびきの 山のしづくに(万葉)
ひさかたの 光のどけき(万葉)
あかねさす 紫野ゆき(万葉)
ちはやぶる 神代もきかず(古今)
➁比喩的に限定するもの
なつくさの 深くも人の(古今)
ぬばたまの 夜のふけぬれば(万葉)
わかくさの 妻もこもれり(万葉)
➂同音の反復、または類似の音の連想によるもの
はつかりの はつかに声を聞きしより(古今)
ねぬなはの 寝ぬ名は立てじくるないとひそ(古今)
あさぢはら つばらつばらにもの思へば(万葉)
④掛詞の関係で続くもの
あづさゆみ はるの山辺を越えくれば(古今)
いもがそで 巻来の山の朝露に(万葉)
たまくしげ 二上山に月傾きぬ(万葉)
■「被枕」との関連性 (掛かり方)
➀意味の関連による
あまさかる 鄙
くさまくら 旅
たらちねの 母
すがのねの 長し
➁音の関連による(同音、類御)
あしたづの たづたづし
ちちのみの ちち
つがのきの いやつぎつぎ
■枕詞の発生的経過
(1)万葉集の中期以前
尊厳なものである神、崇高なものである自然、畏怖すべきものである
天然現象、純真素朴なますらをぶりなどをより強く印象付ける必要が
あった。被枕は必然的に神名、人名、地名などが主になった。
(2)万葉集後期
中央集権化がすすき、宮廷皇族、官人、中央豪族達による政治の安定化
は、生活に余裕を生み、歌謡から和歌へと創作活動が盛んになった。
「枕詞」にもみやび、ひなびの姿が現れるようになった。「被枕」も、
身近にある立派なもの、美しいもの、動作・行動を伴う動くものを対象
とするようになり、名詞などの体言のほかに、動詞や形容詞といった用
言をも修飾するようになった。
(3)古今集以降
生活環境が一層豊かに、情報も多岐に亘るようになって、歌風自体が複
雑な人間感情の表現へと移り、声調的、情緒的なものが多くなった。内
容の空虚な観念的な表現に伴う形式的修司へと落ち込んだ。「序詞」「掛
詞」「縁語」などに地位を譲った。
(4)江戸時代
商業・経済の活発化から連歌・俳諧・狂歌・川柳などの娯楽的文学が主
流になった。
■枕詞の音数構成 全枕詞=678語
{注意}古い時代のものには、語義が解明されていないものや掛かり方が
はっきりしないものも多々ある。
*三音のもの=4語
「ちばの」「はるひ」「やほに」「をだて」
*四音のもの=30語
「うまこり」「おしてる」「そらみつ」「たらちし」「つぎねふ」「ねじろ
の」「まそがよ」「ももきね」など。
*五音のもの=636語
短歌の第一句、第三句にほとんどが使用されている。
*六音のもの=6語
「いかりおろし」「いもがいへに」「ことひうしの」「このくれやみ」
「さくらあさの」「はねずいろの」
*七音のもの=2語
「かさのかりての」「ふぢのうらばの」
■「枕詞」の事典別分類
➀古事記から使用されているもの=74語 (内25語は古事記固有)
➁日本書紀から使用されているもの=33語 (内20語は万葉集以降も)
➂万葉集から使用され始めたもの=426語 (古事記、日本書紀で使用され
たが、万葉集には現れないものが43語あり)
④古今集から使用されたもの=61語
⑤その他の歌集から使用されたもの=84語