天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー唇(1/4)

 唇は、哺乳類の口の上および下の縁をなす軟らかくて可動性の大きい部分。

比喩表現として、「唇を噛む」「唇が寒い」などあり。

 

  こころみにわかき唇ふれて見れば冷(ひやや)かなるよしら蓮の露

                     与謝野晶子

*自分の動作を記述した上句がセクシーで新鮮。

 

  ふぢはら の おほき きさき を うつしみ に 

  あひみる ごとく あかき くちびる

                      会津八一

  冬まけて田居へ吹き越す潮かぜに妻のくちびるあれにけらしな

                      川田 順

*冬まけて: 冬片設けて(ふゆかたまけて)の省略形。冬が近づいて、という意味。

 

  唇は木の実のごとく甘ければ朝(あした)にたうべ夕にたうぶる

                      吉井 勇

  いのち細れる母のくちびるうるほさん井桁(ゐげた)に高く雪ふりつもる

                      坪野哲久

*井桁: 木で井の字の形に組んだ井戸のふち。

 

  くちびるはかほの中心なるなればときにしわれのくちびる燃ゆる

                      葛原妙子

  唇を捺されて乳房熱かりき癌は嘲ふがにひそかに成さる

                     中城ふみ子

  恋に死すてふ とほき檜のはつ霜にわれらがくちびるの火ぞ冷ゆる

                      塚本邦雄

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蓮の露