天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー腹・胃

 胃や腸のあたり。子宮、胎内も。こころ、本心などを意味することも。

 

  腹立ちしなみいづかたによりにけんおもひあかしの浜はわれにて

                       藤原伊尹

*「腹の立った事柄は、どこかに行ってしまった。思い悩んで夜を明かしたのは

私だったのだ。」 といった意味。

 

  帰り来てかたき革帯ときはなちくつろげる腹を撫でて寂しむ

                      大隈長次郎

  腹ゆすり胸ゆすり声を立てにけり笑ひたるなりわが緑児は

                      窪田章一郎

*緑児: 三歳ぐらいまでの小児。特に、奈良時代の戸籍で、三歳以下の男児をいう。大宝令では三歳以下を緑と称した。(日本国語大辞典

 

  腹ゆすりゑらぎ笑へど夜ふかく下(した)泣(な)きすると誰か思はむ

                       吉井 勇

*ゑらぎ笑へど: ひどく笑うとも。

 

  胃が痛むさびしきゆふべ皺もなき冷たき湖にきてながく佇つ

                       坪野哲久

  腹筋を鍛えへむと足を持ち上げて仰ぐ夕空鴉がよぎる

                       奥村晃作

  わが腹にピンクの小薔薇咲き出でぬ涙のごとき露を宿して

                      三浦富美子

*上句の情景が不可解。腸の手術を受けた後のことのようだが。作者の歌集に

『ピンクの小薔薇』(ながらみ書房)がある。

 

  淡あはしくありしひと日を手繰り寄す臍にきちんと繋がむとして

                      阿久津 英

*臍: へそ、ほぞ。

 

  あかときを地震(なゐ)揺りゆけば鳩尾にざぶりと暗き水ひしめけり

                       清水正

*鳩尾: みぞおち。  胸骨の下の、中央のくぼんだ所。きゅうび。

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薔薇の露