身体の部分を詠むー心臓
心臓は 血液循環の原動力となる器官。〈心〉という漢字も心臓の形をかたどった象形文字。比喩的に物事の中心部のたとえ。また厚かましいこと、押しが強いことなどの意の俗な言い方に用いる。
われを証す一ひらの紙心臓の近くに秘めて群衆のひとり
小野茂樹
*大勢で行動するときには、身分証明書を身に着けておくことが肝要。
心臓のかたちといふを思ひたり動悸して闇にめざめゐしとき
大西民子
さわさわとあまた足音のゆきかよい子の心音か四囲をきざむは
吉田 漱
蝋梅のひらくころより心臓の痛みはじまり紅梅のはな
二宮冬鳥
手枕に眠る安堵も淋しかり君には君の心音あれば
森 みずえ
取り出されたる心臓を心臓のなき人間がしかと見送る
岡井 隆
*心臓移植の場面のようだ。
草の上に心臓青く灯りけり蛇苺もて縁飾りすも
*上句の情景が不可解。蛍の明りの明滅なのだろうか?
先にきしジュースの缶の座りゐるベンチに心の臓をいこはす
竹山 広